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東京高等裁判所 昭和62年(ネ)1714号 判決 1988年1月27日

控訴人 福井県コンクリート二次製品工業組合

右代表者代表理事 林安雄

右訴訟代理人弁護士 石川幸吉

被控訴人 株式会社 北研

右代表者代表取締役 細井竹治

右訴訟代理人弁護士 吉原省三

同 小松勉

同 松田英一郎

同 成瀬静代

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「一 原判決を取消す。二 被控訴人が原判決別紙目録記載の実用新案権につき昭和五九年四月二四日に行なった手続の補正が無効であることを確認する。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び立証は、次のとおり訂正し、補足するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

原判決三丁裏四行目の「体力梁」を「耐力梁」と改める。

(控訴人の補足主張)

1  本件中間確認の訴えは、本件実用新案権の権利の内容の確認を求めるものである。すなわち、控訴人が本件において確認を求める権利の内容は、控訴人による控訴人製品の販売行為を差止め、損害賠償を請求し得る被控訴人の権限を構成する法的地位そのものである。そして、本件実用新案権の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、控訴人製品がその技術的範囲に属するか否かを判定する判断規範であり、権利の内容自体を構成するものである。したがって、単なる前提事実であるとする余地はない。法律関係の成否はその要件事実存否の認定が前提であるからといってこれを事実問題であるとしたのでは法律関係の問題は存在し得ないことになる。しかるところ、実用新案法九条一項によって準用される特許法四二条が本件実用新案に適用されるとすれば、その法的地位自体に変化を生じてしまうものであるから、正に紛争解決の前提問題として控訴人と被控訴人の関係を決定する法律関係であり、中間確認に適する事項といわざるを得ない。右の趣旨を明確にするため、原判決事実摘示欄記載の請求の趣旨を控訴の趣旨第二項のとおり訂正する。昭和四七年七月二〇日の最高裁判決(民集二六・六・一二一〇)の事案は、特定の物又は方法が権利範囲に属することの確認を求めるいわゆる権利範囲確認の訴えに関するものであるが、本件はその前提問題である権利の内容に関するものである。

2  仮に、控訴の趣旨第二項の訂正が訴えの交換的変更に該当するとしても、原審においてその請求原因に関する被控訴人の主張は十分に行なわれており、審級の利益は十分に護られている。

(被控訴人の補足主張)

1 控訴人主張の「控訴人製品の販売行為を差止め、損害賠償を請求する権限を構成する法的地位」なるものは、被控訴人が、本件実用新案権の権利者であるという事実と、控訴人製品が本件考案の技術的範囲に属するという事実から生じるのであり、本件実用新案権の明細書の実用新案登録請求の範囲がどうかということは、右の技術的範囲に属するということの前提となる事実にすぎないものである。そして、訂正後の控訴の趣旨第二項も訴えになじまないものである。すなわち、控訴人が「無効であることを確認する。」といっているのは、実用新案法九条、特許法四二条、六四条によれば、「特許法六四条の規定に違反しているものであることを確認する。」という趣旨と解される。そして補正が特許法六四条の規定に違反しているかどうかということは、この場合、問題の補正が同条一項一号ないし三号のいずれかの要件を満しているかどうかということであり、これは事実の問題にほかならない。したがって控訴の趣旨第二項は、その訂正の前後を通じ事実の確認を求めるものであって、権利関係の確認を求めるものではないから却下を免かれない。

被控訴人は、本訴において最終的に登録された時点における実用新案登録請求の範囲に基づいて控訴人製品がその技術的範囲に属すると主張し差止等を求めている。これに対し控訴人が、補正は特許法六四条一項に違反すると考えるのであれば、その違反を基礎づける事実を主張すればよい。そして仮にその事実が認められるとすれば、本件実用新案権の明細書の実用新案登録請求の範囲は実用新案法九条一項で準用する特許法四二条によって補正前の記載のとおりということになり、補正後の記載に基づいて控訴人製品が技術的範囲に属するとしている被控訴人の主張は前提を失なうことになる。その場合被控訴人としては、必要があると考えれば予備的に補正前の記載に基づいても技術的範囲に属する旨の主張をすればよいだけのことで、特許法六四条違反の事実があるかどうかは終局判決で判断すれば足りる。それをわざわざ中間確認の訴による方がよほど訴訟経済に反するものであり、中間確認の訴によらなければ訴訟経済に反するという控訴人の主張は理由がない。控訴人は、控訴の趣旨第二項に掲げるところが紛争解決の前提問題であると主張しているが、そのことが仮に前提問題であるとしても、それが独立した攻撃防禦の方法にあたる場合に中間判決の対象となり得るということであって、事実問題である以上中間確認の訴の対象となるものではない。最高裁昭和四七年七月二〇日判決は、特定の意匠について特定の登録意匠の権利範囲に属しないことの確認を求めた訴えを、事実上の判断を求めるものとして却下したものである。これに対し訂正前の控訴人の請求は、対象となる物品の特定すらなく、単に登録請求の範囲の確認を求めたものであって、事実上の判断を求めるものであることは疑いない。訂正後の請求も事実についての判断を求めるものであることにかわりはない。

2 仮に訂正後の請求が訴えの交換的変更に当る場合、訂正前の請求は、原審において不適法として却下されている。訴訟判決の控訴審で訴えの変更を許容するとすれば、変更後の請求について全く審級の利益を奪うか、又は当該請求を一審へ差戻、移送することを必要としいずれにしても控訴審でそのまま審理判断するのに適当ではない。したがって、控訴人の訴えの変更は許されないというべきである。

理由

一  控訴の趣旨第二項の訂正について

控訴人は、請求の原因を変更しないで、原判決事実摘示欄記載の請求の趣旨を控訴の趣旨第二項のとおり訂正する旨主張する。そして、当審における控訴人の補足主張及び前記引用の請求の原因によれば、控訴の趣旨第二項による訂正の前後を通じ本件訴えの訴訟物は同一であって、右訂正は単なる請求の趣旨の訂正であり、訴の変更に当らないというべきである。

二  本案前の主張について

本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の登録請求の範囲が出願公告後である昭和五九年四月二四日に行なわれた手続の補正により控訴人が原判決事実摘示欄記載の請求原因2で主張するとおり補正されたことは当事者間に争いがなく、右補正が実用新案法一三条によって準用される特許法五四条一項により却下されることなく本件実用新案権が登録されたことは弁論の全趣旨により明らかである。

本件の控訴の趣旨第二項は右手続の補正の無効確認を求めるところ、実用新案法九条一項によって準用される特許法四二条によれば、出願公告決定謄本送達後の補正が特許法六四条一項の規定に違反しているものと実用新案権の設定の登録があった後に認められたときは、その補正がされなかった実用新案の登録出願について実用新案登録がされたものとみなされるから、右に述べた事実に基づいて控訴人の主張を合理的に解釈すると、控訴の趣旨第二項は前記補正が特許法六四条一項各号の要件事実を具えていないことの確認を求めることに帰するというべきである。したがって、本件訴えは事実の確認を求めるものであることが明らかであり、これに反する控訴人の主張は採用できない。そうすると、中間確認の訴えは法律関係の確認に限られると解すべきであるから、事実の確認を求める控訴人の本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法として却下を免れない。

三  よって原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀧川叡一 裁判官 牧野利秋 木下順太郎)

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